文:佐々木恵理子
――ムエタイとはどのような競技なのでしょうか?
ムエタイは400年以上の歴史をもつ、タイと隣国諸国との戦争から生まれた戦闘術です。
ムエタイは8つの武器(両手・両足・両肘・両膝)を駆使して闘う格闘技で、普通は認められない肘での攻撃も認められているのが大きな特徴です。
写真:佐藤会長(撮影:塩見克己)
――ムエタイとキックボクシングの違いは何ですか?
キックボクシングは日本人の空手出身の人達がムエタイから影響を受けて出来たものです。厳密にいうとムエタイとは全然違います。
ムエタイは芸術、シンラパ(タイ語で芸術の意)といわれ、スマートな戦い方、戦術や戦い方の美しさが求められます。キックボクシングは、どちらがより多くのダメージを与えたかが重視されます。ムエタイはいかに試合をコントロールしたかなども点数となります。ムエタイのポイント、採点のシステム、ルールは高度に発展しています。
「美しさ」という芸術性と格闘技性を両方兼ね備えているのがムエタイなのです。
――ムエタイ選手と聞くとすごくかっこいいと感じるのですが、タイではどのように捉えられているのですか?
ムエタイ選手はタイのイサーン(東北地方)出身の選手が多いのですが、イサーン地方は全体的に痩せた土地で農業以外の産業がなく、比較的貧しい地域と言われています。ムエタイのチャンピオンになって一攫千金を目指しているんですね。そういった関係から、ムエタイ選手のステータスは必ずしも高くはありません。ブアカーオ(以前K-1選手としても活躍)も、K-1で有名になる前はタイ人にも認知されていませんでした。
写真:ラジャダムナンスタジアム 画像提供:名古屋ムエタイジム 「キング・ムエ」
――ムエタイの試合は賭けの対象であることは有名ですが、公認なのですか?
ムエタイの賭けも公認ではなく、スタジアム内で行なわれる賭けについては警察も黙認している状態です。というのも、賭けも、スタジアムが斡旋しているわけではなく、お客さん同士でのやりとりなのです。
賭け事のため、八百長に対しては厳しいです。選手がいつもより実力を発揮していないと判断すると、八百長の疑いがあるということで試合が中止されます。もし八百長が発覚した場合は、ムエスポーツ法によって逮捕されます。
賭けの流れとしては、1ラウンド終了後のインターバルに、あるお客さんが「この試合は赤が勝つぞ!オレは赤に賭けるけど青に駆けるヤツいるか?」と呼びかけて賭けるお客さんを探して賭ける。その際、手の動きで賭け率をあらわすんですよ。「赤1倍、青3倍」などとラウンドごとにいろいろな人と賭けをしていくのです。
ちなみに、賭けがないムエタイ興行も行なわれておりますが、そういった興行にはトップ選手は出場しません。ラジャダムナンスタジアムなどファイトマネーの高いところに出場します。
――ムエタイの変化を感じることはありますか?
近年、ムエタイのトップ選手のファイトマネーが落ちてきています。理由としては、インターネットなどの発展で娯楽が分散して、娯楽としてのムエタイの需要が落ちてきているからです。
また、ギャンブラーだけが喜ぶタイ人同士の試合だけではこの先ムエタイが発展しないという危機感もあるため、強いタイ人選手とも対等に渡り合える外国人選手を育て、ムエタイをよりグローバルなものにしていかなければならないという流れがあります。
――ムエタイで強くなるためには?
ムエタイで強くなる為には、ムエタイを理解しなければなりません。理解するためにはタイについて知らなければなりません。ムエタイはタイの土地・風土・宗教に根差していますから、競技として技だけを強くしても限界があると思います。
ムエタイを理解していないキックボクシング選手は、本場タイでは勝つことは難しいと思います。
――佐藤会長と、ムエタイとの出会いについて教えてください。
小学生の頃に空手を習っていました。中学2、3年の時に『ゴング』(現在の『ゴング格闘技』)でムエタイ特集を読み、ムエタイの格好よさに憧れて、18歳でキックボクシングジムに入会しました。
――その後、第14代全日本キックボクシング連盟フェザー級王座、第2代ニュージャパンキックボクシング連盟ライト級王座を獲得されておりますね。
引退後は、もともとジムをやろうと思っていたため、ムエタイ・キックボクシングのみではなく、トレーニング理論を学ぶため公営のスポーツセンターで働きました。
2004年に「名古屋ムエタイジム キング・ムエ」をオープンすることができました。12月で14周年に突入しました。
写真:佐藤会長(撮影:塩見克己)
――キング・ムエさんは、福田海斗選手(元タイ国プロムエタイ協会フライ級王者&WPMF世界フライ級王者)や山田航暉選手(現WMC日本スーパーフライ級王者)など、チャンピオン選手を育成されていらっしゃいますが、育成方針などはありますか?
本人たちの素質やヤル気による部分が大きいです。僕が教えなくても、チャンピオンになる選手はなりますよ(笑)
キング・ムエでは試合に勝つための指導ではなくて、キッズクラスであっても正しいムエタイを教えます。
指導方法ですが、よほど大事な試合前などでなければ追い込んだりはしません。特に福田海斗や山田航暉は小学生からムエタイをやっているため、本人たちに任せている部分もありますね。
人間の持つ身体能力は25~27歳でピークを迎えます。いかにその時に一番良い状態で最も高い位置に行くかが重要だと考えています。そこまで続けるのがベストなので、勝っても負けても何も言いません。負けても次に頑張ればいいですからね。
福田海斗選手(写真右)画像提供:名古屋ムエタイジム「キング・ムエ」
――最後に、佐藤会長が日本のムエタイについて考えていることを教えて下さい。
現在、日本におけるムエタイの統一した組織がない状態なので、今後、統括するコミッションを作りたいと考えています。組織体制を整えなければなりません。興行も、コミッションが認定するもののみを実施できるようにしたいですね。現在は各プロモーターが個々で興行を行っている状態のため、様々な問題があります。
国際的な動きですと、昨年の12月、ムエタイは国際オリンピック委員会(IOC)承認団体として、暫定的に認められました※1。
日本におけるムエタイのコミッションを作ることは、50年、100年後に日本でムエタイを残していくために、絶対に必要なことだと考えていますので、何年かかっても働きかけていきます。
――ありがとうございました。ムエタイの奥深さを感じる事が出来ました。本国タイに行ってラジャダムナンスタジアムやルンピニースタジアムでムエタイを観戦したくなりました。
そして、ムエタイのコミッションがまだ日本にないということが衝撃的でした。コミッションができるよう、佐々木もムエタイを応援させて頂きたいです。
※1「五輪=IOCがムエタイとチアリーディング団体を暫定承認」2016年12月7日 ロイター
写真:佐藤会長(写真左)と佐々木(写真右)
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「佐藤孝也のキング・ムエ日記」http://blog.livedoor.jp/kingmuay/ |
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こちらの情報は2017年12月時点のものです。